女のような高い声

──5月9日を以って書きかけになっていた記事を、何とかして形にしたのが、以下の雑文である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

常日頃からTwitterやなんだで表明している通り、僕は根本的に、本質論、が嫌いだ。

嫌いというか、「本質的に〇〇」という言説を、軽い気持ちで(かつ、ネガティブな形で)用いることに抵抗がある。お前は◯◯か!、みたいな。◯◯にもいろいろあるだろ。

 

 

 

なので本当のことを言うと、

「女のような高い声」

という記事タイトルにすら、若干の危うさを覚えている。

 

しかし、そう書かざるを得ないのだ。

それは、女のような高い声、だったから。

 

 

 

 

 

 

 

サントリーマグナムドライが復活販売されるようになって、何日経ったろう。子どもの頃によく聞いた、

「ギンギン ガンガン マグナムドライ

というCMソングと、新発売のマグナムドライとが、僕の中で結びつくまでにかかった日数、それよりはたぶん、2、3日長いように思う。(と書いてから、もう1ヶ月以上経過した)

この間から放映されている、帰ってきたウルトラマンパロディーのCMは、はっきり言って超ダサい。

 

 

 

いやしかしそれでもやはり、マグナムドライ、というものへの憧れは消えなかった。

子どもの頃、CMでその名をよく聞いたお酒。大人になった今はもう、生産が終了していて、飲むことができなくなっていた発泡酒

それが復活販売されるというのだから、少なくとも一度は飲んでみたくなるのが人情というものじゃないですか。そうでしょ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういう訳で、昨夜ぼくは少し酔っていた。

 

たかだか6%の発泡酒だから、そうたいそうに酔っていたわけではない。少し気持ちを大きくして、判断力をごくわずかに鈍らせるような、たったその程度の酔気だ。

 

 

 

 

その程度の酔いですら、深夜0時という魔物にとっては、力強い家来となる。(なんという詩的な表現だろう!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冷蔵庫を整理しよう。

と、思い立った。詩的さのカケラもない。

完全に、酒の勢いだった。マグナムドライが思ったほど美味しくなかったのも、一因かもしれない。

そういう、根拠のない勢いを外部へ…なんらかの非・社会的な犯行へ注がないだけの判断力は、十二分にあった。

 

 

明日はゴミの日なのだ。冷蔵庫の中にいらないものがあったら、処理しなければならない。

例えそれが、食べるのを楽しみにしたまま忘れていて、干からびてしまった鱧しんじょうだとしても、安売りの時についでに買って、忘れ去られていた真っ黒いカボチャだとしても。

消費期限、というものの前に、食材は平等だ。否、平等であるべきなのだ。

 

 

 

あるべきなのだが。例外もある。

 

 

 

 

 

 

 

 

「匂いも色も正常で、味もそんなにおかしくないもの」

 

 

 

 

 

 

こそが、この例外にあたる。

今夜に限っていうならば、それは  ───生クリームだった。

(罫線を3つ連ねると、純文学っぽさが増す。)

 

 

 

 

 

 

生クリーム。

(罫線の後の単語を、単体で直後に用いると、エッセイ感が増す。)

 

 

 

生クリームを買うことなんて、滅多にない。年末に、おせち用のいもきんとんを作るときくらいで、それだってなるべく安価な、植物性のクリームを選ぶほどである。

(いま僕は謙遜と見せかけて、さりげなく、それなりに料理ができる男を演出している)

 

 

 

にも関わらず、いま我が家の冷蔵庫には、未開封の生クリームが5つある。すでに賞味期限が切れていて、売り物にならなくなった代物を、とあるルートから譲ってもらったのだ。

(遠回りに、廃棄の品を盗って帰ったのではない、とフォローしているのです)

賞味期限の欄には、0419、とある。年数の記載はないけれど、間違っても令和年間のそれではないだろう。

 

 

意図せず願わず平成を超え、令和を迎えてしまった悲しい奉祝生クリーム。彼らの冥福(生クリームにも冥土があればいい。)を祈りつつ、我が町指定のゴミ袋へ放り込もうと、

 

 

 

 

 

 

 

 

掴んだ、その時。僕の動きは止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、固まってない…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開封の生クリームと聞いて、あなたなら、どのような状態を思い浮かべるだろうか。

10人いればおそらくほぼ10人が、

「牛乳パックの小さいやつに、液体が入っている状態」

を想起するのではなかろうか。

 

 

実際、そうなのだ。僕だって、そんな10人のうちの一人だったし、このミルキーなジャクソン5を受け取った時点では、たしかに彼らも、液状を保っていたのだ。

液状、easy now.だったのだ。

 

それが20日という時間をかけて、ゆっくりゆっくりと、固体に変容していたのだ。こっちが全く知らな間に、彼らは彼らで、彼らの死を、彼らの形で迎えようとしていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこと言うてる場合か!!!

 

 

 

 

ちゃうねん、バターみたいになってるんよ。一見すると、めちゃくちゃ美味しそうやねん。

 

 

 

 

 

 

めちゃくちゃ美味しそうやねん!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機能覚えたての中学生みたいなブログだな。最悪。

 

 

 

 

 

 

 

本題。賞味期限切れの生クリームが5つあって、5つとも固体化していた。

それだけのこと。2行で済む話!!

 

 

 

 

 

 

兎にも角にも、開けて見ないことにはなんとも言えない。

ものすごい悪臭がするんじゃないか…と焦りながら、開封

 

 

 

臭いは、ない。

 

 

 

 

(そりゃそうや。酔うてて、鼻詰まってしもてるねん、アホか!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カバンから常備薬を取り出して、鼻の通りを良くする。ここまで努力したんだから、悪臭なんかさせたら許さんぞジャクソン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはり、臭いはない。

手で仰いで見ても(理科の授業で習ったやつ)、鼻を近づけてクンクンしても(理科の授業で怒られるやつ)、それでもなお、臭いはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに書き忘れていたが、この時点で僕はすでに、全裸である。

思考と行動の流れを記すと、

 

 

 

 

 

「酔った!風呂はいろ!服脱ご!」

「沸かしすぎた!あっつい!どうしよ!」

「冷蔵庫の整理しよ!」

 

 

 

 

これだ。決してやましい理由からではない。

 

 

 

 

 

 

全裸である。少し酔ってもいる。

目の前には、固まった生クリーム。

 

頭に、牛乳風呂、と言う単語がよぎる。保湿乳液、と言う言葉が浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づいたら僕は、生クリームまみれになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もちろん、バケツの水のように浴びたわけではない。

とりあえずひとかたまりを手にとって、二の腕に塗りたくってみたのである。

 

 

 

さすが、新元号を冷蔵庫で迎えただけのことはある。ヒヤッとしている。

同時に、体温で溶けていく姿からは、「元来、俺は液体なんだ」という、矜持のようなものも感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鏡に映った自分の姿を眺めながら、気づいたら僕は、高らかに笑っていた。

テカテカになった二の腕。心なしか、肌ツヤが良くなったように思えて、こうなると次に取るべき行動は、もう他になかった。

 

 

 

 

気づいたら、風呂場に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両手ですくった生クリームを、僕は躊躇なく、身体へと塗りたくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒャーーーーーーーッッッッッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

という声をあげる!!!!!!!!!冷たいのだ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに揉み込む!!!!!!肌よ輝けとばかりに揉み込む!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

てりかがやく身体!!!!!!!!

ヌルヌルになる風呂場!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は笑っていた!!!!

なにこれ、

 

なにこれと、ヒャーーーーーーーッッッッッッッと笑っていたのだ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━それは、女のような高い声だった。