1月25日に、年末の眼鏡の件を思い出して書いた話

この日記を書き始めたのは、果たして何月何日だったろう。
すっかり忘れてしまったけれど、かつて自分がフリックした文字文字と、断片的な記憶とを頼りに、書きつづけてみる。

 

 

 

年末に、伊達眼鏡を買った。
言わずと知れた3COINSショップで、税込分9枚のコインを出して、買った。


硬貨で安価な眼鏡を買った。

 


正確にいうと、眼鏡じゃなくてサングラスらしいのだが、ぱっと見では眼鏡にしか見えないサングラスなので、
もはやこれは僕にとって、ぱっと見では眼鏡にしか見えないサングラスではなく、サングラスと名のついた眼鏡なのである。


購入理由は別に、変装をするためでも、目の前で眼の前で、UVをカットするためでもない。

 


かけてみたかったのだ。眼鏡を。

 

 


幸いにして、視力のいい人生を送ってきた。

暗い部屋でテレビを見たり、
布団の中で漫画を読んだり、
押入れの中にお菓子とゲームを持ち込んで遊んだりするのが、
大好きな子ども時代を過ごしたにも関わらず。
(今も好き。)

 

僕の両目の状態は未だ、少なくとも1.2という数字を出せる程度に、良好である。

 

そんな目よし長慶であるが故に、僕は生まれてこのかた、眼鏡というものをかけて生活したことがない。

 


たまに、友達や兄貴のメガネを借りて、かけて見たことはある。
けれど、目は痛いし、鼻の上に違和感はあるし、踏んだり蹴ったりで、ものの数分で辞めてしまうことが常だった。

 

かといって、もし視力が悪くなってしまった場合、
(聞いた話なのだが、老化、というものがあるらしい)
コンタクトレンズを目の中に入れるほどの度胸は、僕にない。

 

目の中に入れても痛くないほど、コンタクトレンズを可愛く思える気もしない。

 

もしそうなってしまった場合に、僕に残された選択肢は、眼鏡をかける、以外に存在しない。
であるならば、今のうちから度無しの眼鏡をかけておいて、その日に備えておくべきではないか?

 

と、
は、思わなかったけれど。

 

 

そんな大それた理由などなく、ただ単純に、眼鏡をかけた生活というのを、やってみたかったし、やって見たかったのである。

 

 

 

初めて眼鏡をかけて出かけた、年の瀬のある日。


昼夜感覚がぶっ壊れているから、早朝6時みたいな顔をして、11時15分の街を歩いた。


かつての遊郭跡地(未だにお店はたくさん残ってて、ゴーストタウン化してる)を横目に、街を北上する。

眼鏡をかけながら何かを横目に見るのは、生まれて初めての経験だった。

 

寒い朝(というか昼前)、僕は駅に向かっていた。
その日はたまの休みだったので、ちょっとお出かけしたかったのである。

もちろん、眼鏡をかけて、だ。

 

行く先のアテはなかったが、時間的にお腹も空いていたので、
(朝飯の感覚だったが、昼飯の時間だった)
ラーメンでも食べに行こうと、思っていた。

 


駅のホーム。思わぬ災難が僕に降りかかった。


あまりにも寒いので、缶コーヒーを買って飲んでいたのが、突如ときて、目の前が真っ白になってしまったのだ。


テロかと思ったが、そうではない。


おそらく、ほとんどの人がこの事実を知らないと思うのだが、

 

 

 


湯気を当てると、眼鏡は曇る。

 

 

眼鏡知らずの兵庫っ子である僕は、何の前触れもなく訪れた薄白の世界に、有馬の雪を見た。

 


仕方ないので、コーヒーを飲んでいる間、眼鏡を外すことにした。
途端、さっきまで不良極まりなかった視界は開け、
ちょっとだけ黄色がかった世界は、本来の明るさを取り戻した。(やっぱりこれサングラスなんだな、と思った。)

 


コーヒーを飲み終え、ホームのゴミ箱に缶を捨てて、再び眼鏡をかける。
もう二度と同じ轍は踏まない。


さっさと目的地へ行って、ラーメンを食べて、お買い物でもして帰ろう。

 

 


固い決心をしてから、40分後くらいだろうか。
一杯のラーメンを目の前にして、僕の視界は再び、奪われることとなった。

 


おそらく、ほとんどの人がこの事実を知らないと思うのだが、

湯気を当てると、やっぱり眼鏡は曇るのだ。

 


ラーメンを食べる間、眼鏡を外すことにした。
またしても僕と眼鏡は、現実に打ち負けたのである。

 

敗北感に苛まれつつ、お冷の横で横たわる眼鏡を眺めながら、
視力が良くて本当によかったな、と思った。


美味しそうなラーメンを、眼鏡も無しで、眺めることができるんだから。


ありがとう、俺の両目。
目の中に入れても痛くない、俺の両目。ありがとう。

 

 


ラーメンを食べ終え、眼鏡をかけて、街へ出た。やっぱり世界は、少し黄色がかっていた。

 


相変わらず、行く先にアテはなかったけれど、
眼鏡拭きを買って帰ることだけ、僕の中では決まっていた。

 

街中に行くにあたり、風邪を引きたくなかったので、マスクを装着して歩いた。

 

 

 

 


途端、僕の視界は薄白になった。

 

マスクの奥に笑顔讃えて、僕は三度、眼鏡を外すのであった。