11月7日に、こういう大人になっちゃダメだと思った話

酒が飲みたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いきなり大きな字で書くくらい、それぐらい僕は、酒が飲みたかったのだ。

 

 

 

 

21時半頃。一仕事終えた僕は、酒席に向かう仲間にバイバイして、帰路についた。

僕だけみんなより家が遠かったから、である。

 

 

 

 

 

 

みんなの背中が見えなくなったので、僕もくるりと踵を返し、駅へと歩き出した。

 

 

・・・と、その途端。なんでかわからんのだが、ガクッと疲れに襲われた。ガクッと、である。

ちょっととか、少しとか、ドッととか、セミコロンじゃ、ないのである。

 

くるりと踵を返しただけなのに。

僕の中から誰か出て行ったのだろうか。

 

 

 

 

 

弱ったなぁ、と思ったのとほぼ同時。

 

 

 

 

気づけば身体は、酒を欲していた。

 

 

 

 

 

疲れが出ているのだから、無事に家まで帰り着くためにも、寝るなりぼーっとするなり、大人しくしておくべきなのは重々承知している。

 

 

 

 

けれども僕は、それでも僕は、酒を欲してしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

電車で飲もう…ーーと、決意した。

 

 

 

 

この時間、僕の家方面(正確には、僕の家から徒歩20分くらいの最寄り駅、方面)の特急は大体、ボックス式の座席を、その腹に抱えている。

 

うまいこと調整すれば、二人がけの椅子を、あたかも自分の個室か何かのように使えるタイプのあれだ。

 

 

 

 

「あそこでなら、酒を飲んでも良いだろう・・・」

と、僕の理性がGOを出していた。(業が深い。お郷が知れる。)

 

 

 

もちろん、電車の中のみならず、公共の場で飲酒をする行為は、決して褒められたものではない、と思う。

 

 

 

とはいえ、理性は ーーあくまでも僕の中の理性はーー、

「ボックス席における飲酒はセーフ」

と、結論づけた。

 

 

 

 

 

気づけば僕は成城石井で、ハイネケンと、ほろよいももと、助六弁当(30%オフ)を、購入していた。

 

発泡酒ではなく、ハイネケンなんて贅沢をしているあたりに、僕の気合と欲求の強さがうかがえるし、

値下げされた助六弁当でバランスをとってるあたりに、まだ飲む前の冷静さも垣間見える。

 

 

 

 

 

 

ついでにアズナスで、週刊少年ジャンプ(未だに読んでる)を購入し、意気揚々とプラットホームへ歩みを進めた。

 

我こそは最強だ!!と、思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・しかし。ホームへたどり着いた僕の目に飛び込んできたのは、

「次発 快速急行

という、予想外の電光掲示だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうなのだ。

あまりこの時間、この路線の電車に乗らないから、僕は知らなかったのだ。

 

 

 

22時を過ぎたこの方面、特急電車はとっくに終わっている、ということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌な予感を抱える僕の前に、快速急行はゆっくりと現れた。

果たして彼は、長椅子だけを積んでいた。奴のヘッドライトが、残念でしたと言ってるように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「長椅子だからなんだ!同じ電車じゃないか!」

と、思われる方も、中にはいるかもしれない。

 

 

 

 

だがしかし、残念ながらそれは違うのである。

 

うまくいけば半個室になりうるようなボックスシートと、

どう足掻いたって運命共同体的な長椅子式とでは、天と地ほどの(実質、集と個ほどの)差があるのだ。

 

 

いかに業深き僕の理性とはいえ、

長椅子式のシートで酒を飲むことに対しては、GOサインを出さなかった。思いの外、僕は冷静だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし。また、しかしだ。

理性がGOを出さなくたって、感情がGOを出したがることもある。

 

 

 

 

 

「あかん、流石にそれはあかん、良心が許さん。やめとけ。」
と、僕の中の良僕が囁く。

 

 

「いいじゃんか。たまにいるじゃん、飲んでる奴。時間も時間だし、気にするなよ。飲んじゃえよ」

と、僕の中の悪僕が囁く。

 

 

 

 

 「石川や 浜の真砂は尽きるとも」

と、記憶の中の啄木が詠う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイネケンとほろよい、そして助六の入った袋を片手に、僕は葛藤していた。

 

 

 

 

学生時代の僕は、

 

缶ビールやストロングゼロを片手に電車へ乗り込んでくる、ネクタイを緩めたくたびれサラリーマン達

 

を、とてつもなく残念なもの、のように眺めていた。

 

 

 

 

また同時に、彼らのことを、大変にかわいそうで哀れなものであるように眺めていた。

「かわいそうだけど、あんな大人にはなりたくないな」

と、思っていた。

 

 

 

 

 

 

その大人に今、僕はなりかけているのである。

 

 

あと一歩踏み出せば、僕はめでたく、彼らの仲間入りを果たすことができるのだ。

 

 

 

 

 

飲んでしまおうか。

いや、やめておこう。

 

 

いやいや、やっぱり飲もうか・・・。

いやいやいや、やめとこうよ・・・。

はたらけどはたらけど・・・。

 

 

 

 

 

 

僕の中の悪僕と良僕と啄木が戦っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

結論が出るまでに、相当な時間がかかった。

 

 

 

 

 

 

飲もう!!!!!

と、決めた。

 

 

 

 

 

車内にはすでに、空席が目立ち始めていた。

 

 

 

僕の良心よ、

社会の公序良俗よ、

今は亡き石川啄木よ、赦せ。

 

 

 

俺は俺の欲求を、今日だけ許してあげたいのだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、思ったその時。

終点である最寄駅に着いた。

 

 

 

ぽかーんとしつつ、電車を降りて、帰路に着いた。

 

 

途中、川沿いで歌う路上ミュージシャンの横で、ハイネケンとほろよいを飲んだ。

気づいたら、CDを2枚買っていた。

 

 

 

働けど働けど、我が暮らし楽にならざる理由、ここにあり。

 

 

 

 

ローソンに寄って、ストロングゼロとチョコパイを、ポイントで引き換えた。

 

チョコパイを食べながら、ストロングゼロを飲みながら、家まで歩いた。

 

 

 

 

こんな大人になりたくなかったな、と思った。