3月20日に、歩調をあげたり、飛んだり跳ねたり、舌を出したりした話

 

 最近、お務めのない日は、いつもアルバイトをしている。

矛盾していると思うかもしれないが、していない。
アルバイトはお勤めであって、お務めではないからだ。

じゃあお務めはなあに?と尋ねられても、それはここでは言えない。

 


とにもかくにも、今日も僕は、アルバイトをしていた。
10時から、19時過ぎまでのお仕事。休憩入れて、8時間足らず。

学生とか定年後とか、主婦のアルバイトとしては、ちょうどいいくらいか、ちょっと長いかくらいだろう。

 

だけど僕は、そのどれでもない。
大学はもう卒業してしまったし、ましてや定年を迎えていようはずもない。
(言うまでもなく、主婦ではない。)

 


ゆえに、このくらいでは足りないのである。一日8時間アルバイトしたくらいでは、食べていくことすらできないのである。

 

 


そう言うようなわけで、お務めのない日は、ほぼ常にお勤めをしている。

2日勤めて、1日務めて、3日勤めて、1日務める。
そんな毎日を、今僕は送っている。


そりゃ、大喜利する暇、おまへんわね。
結構寂しいのですが、今日の本題は別にあるので、この話はしない。

 

 

 

とは言うものの、特に本題とて、ないのである。日記だから。

旅行記を記し、考察文が終わり、卒業の感傷文も書いて、ようやく日常に、僕は戻ってきたのだ。おかえり。

 

 


今日はお務めのない日だったから、お勤めをしていた。平たく言えば、アルバイトをしていたのである。


アルバイトがある日、僕は毎回、7時40分に起床する。

たかがアルバイトなので、一般社会で働く人に比べれば、言うほど早起きではないけれど、
4回生の一年間、ほとんど授業なく過ごしていた僕からしたら、相当な早起きだ。だから最近、いつでも眠いのである。

 


僕は早朝に朝ごはんを食べると、お腹を壊す。先日の旅行記で記した通りだ。
けれど、何か食べないことには、働く力も出ない。

これくらいならいいだろうと、塩バタークロワッサンを、ひとつ。
僕は寝起きがあまり良くないので、食べたくないけど、食べる。

 


食べたくないのに美味しかったから、食べたい時に食べたなら、相当美味しかったんだろうなぁ。

 

 

 

8時15分に家を出た。
なんかそんな気分で、ずっとテネシーワルツを聞いていた。

 


春の陽気。ネックウォーマーは、もう要らなかった。

この季節の匂いが、ぼくは好きだ。たくあんみたいだな、と思う。
たぶん、新緑が芽吹くような、花が咲くような匂いなのだろう。
でも僕にとってはやっぱり、たくあんみたいな、甘酸っぱい匂いなのだ。

 


最寄駅から電車に乗って、大阪へ向かう。
ブログを書こうとしたのだけれど、気づいたら眠ってしまっていた。

 

テネシーワルツはいつの間にか、久石譲に変わっていた。

 

 

 

朝10時前に、就業。
バイトの内容に関しては、守秘義務が怖いので、やっぱりここには書けない。
平たく言えば、営業だ。ずーっと誰かと話をしている。

 


素人落語をした時には、感じたことのない疲労感を覚える。
つまらないことを話す時間は、僕に相当、疲労を与えるようである。

 


休憩を挟んで、19時過ぎまで働く。
今日は営業成績が良かった。このまま社員にして欲しい。

 

嘘ですけど。

 

 

帰り道は、行きと全く同じルートを、逆にたどるだけだ。
違いがあるとすれば、途中、神社によってお参りをするくらい。これは日課なので、特に変わったことでもない。

 


駅から、坂を登る。旧道ではないけれど、あまり人通りのない道で、20時手前ともなると、誰にも会わないことさえあり得る道だ。

 

そんな道なのに、今日はたまたま少し前を、コワモテのお兄さんが歩いていたのである。

 

 


距離を取りたいなぁ、と思った。
近すぎたのだ。
ちょうど僕が、彼を尾行しているような距離感になってしまっていた。

 

離れるなり、追い越すなりしたいのに、なぜか不思議とその人と、僕の歩調が合っていた。

 

 

一定の距離、それもほとんどないような距離を保って、坂を登った。

 


ふとお兄さんが、こっちをチラ見したのを、僕は見逃さなかった。
歩調を速めてくれ!と思った。

 

 

そんなつもりもないのに、ストーカー扱いされるのは、まっぴらごめんだ。それも、コワモテのお兄さん。僕の全く守備範囲外のおのこだ。

 

 


余談だが、そう言えば以前この道で、女子高生からストーカー扱いされたのを思い出した。

 

 

 

結局お兄さんは、歩調を速めてくれなかった。僕たちの距離はなお、一定に保たれていた。


仕方ない、と思った。僕は折れてあげることにした。

 


歩調をあげて、コワモテを追い抜いた。追い抜いてしまったので、コワモテがどんな反応をしたのか、僕は知らない。

 

追い抜き、歩調をあげて、しばらくしてから、初めて振り返った。
もはやコワモテの姿を、そこに認めることはなかった。

勝ったような負けたような、不思議な気分になっていた。

 

 

 

その時、シャッフル再生が、たまたま、チャック・ベリーを流した。

 

 


足早の身体が、リズムに乗り始めて、テンションが上がっていくのがわかった。
速歩きが、気づいたら小走りになっていた。

僕は少し飛んだり、跳ねたりしながら、チャック・ベリーに飲み込まれた。

 

 

気づいたら、舌をペロッと出したりしていた。

 


いつ頃からかわからないのだが、僕には、テンションがあがると舌をペロッと出してしまう、悪い癖がある。行儀が悪い。

 


けれど、誰もいない道で、僕は小走りに飛んだり跳ねたりしながら、舌をペロッと出していた。
死んだ彼の声が、イヤホンの向こうで鮮やかに生きていたのである。

 

僕は特段、彼の大ファンではない。

世界中に何百万といる、彼のちょっとしたファンの一人にすぎない。

 

けれど、死してなおその音楽は、軽快であった。

ロックンロールの始まりが、終わったことを実感した。曇り空の夜だった。

 

 


気づいたら、僕はもう、坂を登りきっていた。