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もののけ姫考察⑤

もののけ姫考察

 

 ●変えられなかった神、僕のついた嘘

 

さて、ようやく、ようやくたどり着いた、おしまいのくだりである。

 

冒頭記した、

「神が神でなくなる時代に、神が変えられなかった物語」

という表現の意味を、ようやくここで、語ることができるのである。

 

 

第一項で明言した通り、

「神でなくなった神」

とは、もののけ達のことである。

 

そして、もののけ達を神ではなく、化け物として認識するようになった「人間」と、もののけ達を今なお崇敬している「旧人」との対立こそが、この物語の核である、と続けた。

 

両者の諍いに、「人間」であり「旧人」でもある、「新人」アシタカが介入したことにより、物語は前へ進む。

 

生物種としてヒトであるアシタカには、今回登場したような全ての問題・対立を解決することなど、到底できなかった。

それでも最後には、「人間」と「旧人」の共生、その架け橋となる強い決意を以って、物語は終わる。

 

 

 

 

これこそが、もののけ姫という物語の簡単なプロットなのである。

最終項で、簡潔にこれを言いたいがために、ここまでずっとずっと、たくさんたくさん、言葉を連ねてきたのだ。そう、すべては前振りだ。

長かった・・・僕の想像と全然違うし・・・。

 

 

そして今から、最後に残ったひとつの疑問を解消するために、わずかな力を振り絞って、もう少しだけ言葉を連ねて行く。

最後に残ったひとつの疑問。それはすなわち、

 

「変えられなかった神とは何か?」

 

である。

 

 

 

 

聡明なる読者諸兄は、おそらくもうすでに、この問いの答えに気がついていることだろう。

私がここまでほぼ言及してこなかった、けれど絶対に、無視することはできない存在。

 

 

 

 

 

 

 

変えられなかった神とは、シシ神のことだ。

 

 

 

もののけ姫という物語において、シシ神こそが、唯一にして、真実の神である。それ以外に神など登場しないし、登場したとしても、それは本当の神ではない。

 

 

 

 

さあ、ここまで真剣に読んでくれたあなたからは、物言いがつくかもしれない。

 

「シシ神が唯一の神?もののけは神だったんじゃないのか?神が神じゃなくなった結果、対立が生じたと言ったじゃないか!」

 

と。

いやはや、その通りなのだが、実はあなたは、私の仕掛けた罠に、まんまとハマってしまっているのです。ごめんなさい。

 

 

 

もののけが神であると断じた、あれは嘘だ。

 

本当は、もののけは神ではない。

「神として認識されてきたもの」

に過ぎない。

 

 

 

第二項で僕は、神が弱体化し得るかという疑問を投げかけた。その自問に対して僕は、弱体化し得ると自答した。

 

 

あなたは、ここで騙されてしまったのである。あれは嘘だ、とんでもない嘘だ。

 

 

 

ヒトの認識の有無によって弱体化し得る神なんて、本当の神ではない。

それはまさに、かつてディートリッヒ・ボンヘッファーナチス期の神学者、ドイツ人)が言ったところの、「機械仕掛けの神」にすぎないのである。

 

 

 

 

●機械仕掛けの神論とは? ~オチのために必要な余談~ 

 

機械仕掛けの神論。

これについて論じ始めると、今回の考察文と同じか、それ以上くらいの文量が必要になってしまうし、おそらく私の乏しい知識量では、完全にその神学理論を記述しきれないだろう。

 

 

なので、ごくあっさりと言ってしまえば、

「ヒトは祈りたいから、その対象を作る。この対象こそが、機械仕掛けの神、つくりものの神である。本当の神は、ヒトの思惑や意志に一切左右されない、絶対他者である。」

と、こういうことである。

 

 

 

そうですよね、わけがわからないですよね。もののけ姫どこいったんだ、ってなりますよね。

 

 

例え話をしよう。

入学試験に合格したいから、ある受験生が、1万円をお賽銭に用いた。

しかし、あえなく彼は不合格となった。このとき彼が叫ぶ言葉はおそらく、

「1万円もお賽銭したのに!神様なんていないじゃないか!」

とか、そんなところだろう。

 

 

そうではない、ということだ。

なぜならば、本当の神という存在は、ヒトがどのような働きかけをしたところで、絶対に左右されないし、その後の展開を変化させたりしない、絶対他者だから、である。

 

 

彼が1万円を賽銭に投じたのは、1万円のお賽銭を投じるという自らの行為によって、今後の世界の展開(すなわち、試験の結果)に、影響を及ぼしたかったからである。

 

 

そんなことはできない、と言いたいのだ。神は絶対他者であり、ヒトがいつどのように、どのような行為をしたところで、影響されない。

(極端なことを言えば、人を殺そうが長生きする人は幸せに長生きするし、善行をくり返しても、早死にする人は不幸に早死にする。)

 

 

 

祈れば、願えば、お賽銭を奮発すれば、献金をたくさんすれば、神様は願いをかなえてくれる?

そんなわけがない。本当の神は、ヒトにとっていいようにではなく、世界そのものにとっていいように、世の中を流動させる。

 

ヒトが、ヒトの倫理で以て世の中を認識しようとするから、間違いが生じるのである。

ヒトが世界で何百万人死に至ろうが、世界からしてみれば、なんの障りもないことではないか。

 

・・・とはいえ、これではあまりにも救いがないから、現在の宗教体制が築かれたのだろうな、と思う。キリスト教にしろ神道にしろ、です。

祈れば応えてくれると言われた方が、救いはあるでしょうしね。

 

 

 

 

いやいやいや、違うんです。これ本題じゃないんです。別に、怪しい宗教の勧誘とかじゃないんです。

次項ではちゃんともののけ姫に戻るから、勘弁してほしい。

 

加えて言うと、ここをなんとか理解してもらえないと、今回一番言いたかったことが言えなくなってしまうのです。頑張れ!